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なんとなく、とぼけた絵本だ。絵は淡い水彩ながら描線は黒々くっきり、ストーリーも奇抜とはいえまあパターンどおり。それなのに読者はかんじんのところではぐらかされてしまう。 主人公ゴーキーはカエルの少年。両親の留守の間に、台所を実験室にして魔法の薬を作る。その処方を念のため記すと、コップに水少々、チキンスープ、紅茶、酢を各小さじ一、ひいたコーヒー豆少々、化粧パウダー一振り、香辛料二振り。さらにお酒を一たらし、使いかけの香水一びん。これで「あわが炎のようにきらめく」金色の液体ができれば、ほぼ成功のはずである。 これを香水びんにつめて外に出る。切り株の上に香水びんを置き、花と小石で丸く囲んで飾りつけ、おまじないをかける。 まず腕を一回横にひろげ、まっすぐ前にのばし、指先で眉毛をこすり、つまさきにさわって、「オーガ・ルーガ」と二回呪文をとなえる。そのあと少し散歩し、原っぱにあおむけに寝て、目を閉じる。香水びんは右手でしっかり握っている。そうすると魔法がきいてきて、なんとゴーキーは知らぬ間に空を飛んでいたのだ! 評者もさっそく実験した。酒は奄美の黒糖焼酎、香水はディオールのデューンを用いたが、まだ成功していない。(斎藤次郎)
産経新聞 1996/09/06
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