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子どもの頃、空を飛ぶ夢をよく見ました。眠りにつく直前の「夢想」の中では、高い崖の上からすーっと気分よく飛べるのですが、実際に夢を見始めると、なぜだか、地上1メートルくらいのところを、苦労して犬かき(?)のようにして飛んでいたりしました。今回は、「空を飛ぶ」ことの魅力が味わえる本を何冊かご紹介します。 『夕あかりの国』は、アパートの四階に住む病気の少年の部屋に、不思議な小さなおじさんがやってくるところから始まります。「一緒に夕あかりの国へ行こう」と誘われた少年は、「病気で歩けないから」と断るのですが、おじさんは「そんなことなんでもないよ」と、少年の手をとって窓の外に出、いっしょに空を飛び始めます。「子どもの本の女王」リンドグレーンの不思議な雰囲気を湛えた物語に、更に魅力を加えているのは、テルンクヴィストの絵。初めのうちは二人の姿を外側から描いていますが、後半、すっと少年の視点に変わり、さほど高くない上空から夕あかりに包まれたストックホルムの街を見おろす場面では、読んでいる側も、体がふわっと浮き上がるような気がします。 ふわっと浮き上がるといえば、『鳥おじさん』も忘れられない本です。棒のついたおもちゃの鳥を持って遊んでいるうちに、木でできた鳥やぬいぐるみの鳥が空を飛び始め、子どもたちも棒を持ったまま、空に舞い上がり…。子どもたちの驚愕した表情、それぞれ必死でバランスを取ろうとする姿勢などから、「飛んでいる」感じが生き生きと伝わってきて、胸がどきどきします。 『アブダラと空飛ぶ絨毯』は、アラビアン・ナイトなどでお馴染みの「空飛ぶ絨毯」を手に入れた若い絨毯商人の物語。舞台は魔法が当り前のように存在する架空の国ですが、主人公のアブダラはこれまで魔法と縁のない暮しをしていた若者で、どうしたらへそまがりな絨毯にいうことを聞かせられるのかと四苦八苦します。この話の読みどころの一つは、「布に乗って飛ぶ」とどうなるか、ということがよくよく考えて書かれているところ。重い物を乗せると真ん中がぼこっとへこむとか、あまり空高く飛ぶと絨毯の布に氷がつくとか…。こうした、細部まで行き届いた作者の想像力と、絨毯に人格(?)を与えるという工夫のおかげで、昔からある魔法の品に新たな命が吹き込まれたといえるでしょう。お話の本筋も面白いのですが、「本当に絨毯で飛んでいる」ような臨場感が味わえるという点でも、楽しい一冊です。(上村令) 『夕あかりの国』アストリッド・リンドグレーン文/マリット・テルンクヴィスト絵/石井登志子訳 『鳥おじさん』ウィレミーン・ミン作、絵/野坂悦子訳 『アブダラと空飛ぶ絨毯』ダイアナ・ウィン・ジョーンズ作/西村醇子訳
徳間書店「子どもの本だより」1999年7月/8月号
テキストファイル化富田真珠子 |
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