|
連日のニュースは、激動する東欧を報じていますが、この物語の舞台は、一九六〇年代のポーランドの首都・ワルシャワ。十四歳の少女マヤは、地理の進級試験に落ち、追試のための勉強をしていますが、ちっとも頭に入りません。時は夏。友だちは海へ山へと出掛けているのに−。 自分にいらだち、両親にも逆らうマヤ。まったく別の人に生まれ変わりたい! こんなあたしでいたくない! そんなマヤが、十六歳の少年ミハウに出会うところから、話は始まっていきます。 この本は、思春期の、揺れ動く少年少女の気持ちを、淡々と語りながら、異性への目覚め−ちょうど、ツボミがほころびかけるようなその瞬間を、本当に見事に描いています。 著者のイレーナ・ユルギェレビチさんは、一九〇三年生まれ。ポーランドの愛国的な教育者であり、ナチス占領時代には捕虜収容所に送られた、といいます。とはいえ、ナチス占領下の筆舌に尽くしがたい苦しみは、表立って書かれていません。しかし、のどかに生きる戦後生まれのミハウやマヤたちの生活の背後には、戦争で痛め付けられた親の世代がいることを、物語の端々に書き留めています。 静かな語り口でありながら、読者を物語に引きずり込む力を持った本です。小学高学年から大人まで。(池)=静岡子どもの本を読む会
テキストファイル化清水真保
|
|