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絵本『スイッチョねこ』は、お母さん猫に、採るのは良いけれど、食べるのはおよしなさいよ、と言われていたのに、あんなにいい声をしているのだから、食べてもおいしいはずと、スイッチョを食べてしまうやんちゃな子猫のお話。 1966年に生まれ、71年、75年と三回に渡って描き改められたこだわりの絵本です。作者は大仏次郎()、絵を描いたのは安泰()です。 安泰は、1903年福島県の三春生まれ。小さい頃から絵が好きで、大きくなって画家を志し、日本美術学校に入学して日本画を学びます。その間も、生活のために数々のアルバイトをしていましたが、そのひとつが絵雑誌「コドモノクニ」の挿絵の仕事でした。学費のためにはじめた絵雑誌の仕事は、安の中で次第に大きな存在になります。そこには、武井武雄や岡本帰一などの先達の存在がありました。“より良い童画を描くために、日本画を学ぼう”という思いが沸いてきます。 こうして、1932年には、武井等が結成した日本童画家協会に次ぐ、童画家の組織、新ニッポン童画会を松山文雄、安井小弥太らとともに結成します。そこには、武井等の仕事を童画の確立を果たしたものとして大きく評価しつつ、当時活発になりつつあったプロレタリア美術やプロレタリア児童文学の影響を受けて、童画を現実の子どもたちの生活と結びつけていこうとする明確な姿勢がありました。けれど、次第に色濃くなる戦時色の中、戦争の狂気はその理想の実現を許しませんでした。 理想を歪めることなく、戦時下には置いた筆を再び握ったのは、1946年のこと。以後、日本童画会の結成に加わり、童画家の著作権確立や若い画家の育成に尽力しました。 元来、生真面目な性格の安の画風は、幼い頃に育った福島や茨城の、自然に恵まれ自然とともに生きる農家の暮らしの中で培われた素朴で誠実なものです。奇をてらうところのない絵は、デッサンを大切に、対象をより正確に捉えようとするリアリズムの姿勢に貫かれています。それは、意表を突くような目新しさを持ちませんが、いつの時代にも、人をほっとさせ、安心させる力を持っています。 『スイッチョねこ』では、日本画を思わせる落ち着いた色調で、美しい秋の草原が描かれていて、魅力的です。また、子猫の見せるさまざまな動きや表情が、実に生き生きと正確に描かれています。画家自身、好きな作品だというこの絵本を描くにあたっては、久方ぶりに猫を飼い、丹念に観察をしたと言います。 不器用なほどの誠実さで、童画と取り組んだ画家、安泰の微笑ましくも温かい一面です。(竹迫祐子)
徳間書店「子どもの本だより」2000年11月/12月 第7巻 40号
テキストファイル化富田真珠子
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