徳間のゴホン!

第28回「おじいちゃんは…?」
上村令

           
         
         
         
         
         
         
    
 以前、「徳間の児童書に出てくるおばあちゃんは、みんな元気でマイペース」という原稿を書いたことがありました(第四十六号徳間のゴホン!コーナー)。じゃあ、おじいちゃんはどうなんだ?というわけで、今回は、おじいちゃんが大切な役割を果たす本を何点か紹介します。
『シャングリラをあとにして』は、十一歳の女の子セシーと、今まで会ったことがなかった父方のおじいちゃんの物語。セシーたちと出会ってすぐに病気になり、記憶を失ってしまったおじいちゃんのために、セシーはさまざまな手がかりをたどり、やがて二人は、「おじいちゃんが過去にし残した仕事」を片づけるため、おじいちゃんの仲間の老人たちとともに、夜の海に船出することに…?
 パパはなぜ、ずっと会っていなかった自分の父親に冷たくするのか、また、おじいちゃんの船の名前になっている「ルーシー・アリス」という女性はだれか、など、セシーの視点で謎を追いながら読むうちに、波欄万丈だったおじいちゃんの人生の全貌が、次第に明らかになっていきます。
『いつもだれかが…』は、孫の少年に、自分が子どもだったころから孫ができるまでのことを語って聞かせるおじいちゃんを描いた、感動的な絵本。選ばれた数少ない言葉で語られる「事実」と、絵によって語られる「いつもそばにいてくれただれか」の存在とが、絶妙のハーモニーをかなで、じっくり絵を見れば見るほど、新たな発見がある一冊です。過去を語るおじいちゃんも、耳を傾ける孫も、「だれか」の存在に気づいてはいませんが、絵を見ている読者の心には、「わしは幸せだった」というおじいちゃんの言葉が深く響きます。
『旅立ちの翼』に登場するおじいちゃんは、父さんが失業して荒れ気味なとき、五年生のウィルの心の支えになる頼もしい存在。「父さんはおまえのことがかわいいんだよ」という、ウィルが必要としている言葉を言ってくれる人です。でもウィルが世話していた傷ついたカナダガンが飛べるようになったとき、おじいちゃんは…?
 こうして見ると、それぞれに心に残るいい本ではありますが、「おじいちゃん族」は予想通り(おばあちゃん族に比べると!)、「人生」を背負っていて、とても真面目。たぶん、現在「おじいちゃん」になっている年代の男性の、真面目にこつこつ生きてきた「人生」が反映されているからでしょう。
 でも、こういう真面目おじいちゃんと、マイペース元気おばあちゃんのカップルって想像がつかない…と思ったら、取り上げた本ではなぜだか、おじいちゃんもおばあちゃんも、みんな独り者のようでした!

絵本
『いつもだれかが…』ユッター・バウアー作・絵/上田真而子訳
児童文学
『シャングリラをあとにして』マイケル・モーパーゴ作/永瀬比奈訳
『旅立ちの翼』プリシラ・カミングス作/斎藤倫子訳

徳間書店「子どもの本だより」2003年3-4月号 より
テキストファイル化富田真珠子