少年カニスの旅

浜野えつひろ作 鈴木まもる絵

パロル舎 1997

           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 「インディアンもエスキモーもいなかった土地に、一八八〇年頃より」という、アメリカ大陸北部が、この不思議な「変身譚」の舞台である。 
 十一歳のカニスは、「大人の仲間入りのための儀式」でもあるはじめての狩りで、仲間とはぐれ、瀕死の重傷を負い、伝説にその名を残す銀色オオカミに出合う。
 銀色オオカミの魔法にかかったのか、生還したカニスは、無気力な数カ月を経て、ある夜オオカミに変身、森深く逃れる。そしてやがて雌の白オオカミと結ばれ、四匹の子どもの父となり、群れのリーダーになる。 
 ところが、この物語の作者はカフカや中島敦とはちょっと違っていて、カニスをさらにオオカミから人間へ「逆変身」させる。人間の世界とオオカミの世界を行き来する主人公に即して、物語の視点も変わってくる。 
 人間にとっての「開拓」は、オオカミにとっては生きる場への侵害である。 人間とオオカミとはなぜ共存できないのか。カニスの苦悩は深まる。 
 「変身譚」という古い器に、エコロジカルな問題提起を盛りこもうとした作者の意欲は買うが、それが完全に成功しているとはいえない。 
 オオカミといえば、いろいろといわくのある動物で、神話学の助けを借りてでもその深みにおりていくべきではなかったろうか。(斎藤次郎)
産経新聞 1997/06/17