ぞうって、こまっちゃう


クリス・リデル作・絵


たなかかおるこ訳 徳間書店

           
         
         
         
         
         
         
    
 勉強机の引き出しに、ゾウを飼っているという男の子がいた。それを作文に書いたら、「嘘(うそ)は泥棒の始まりだよ」と先生にたしなめられたという。突然のリアリズムに、少年の想像力は宙をさ迷ったに違いない。ドラえもんのポケットを、科学的に証明しろといわれたみたいなものなのだから。大人ってこまっちゃう。

 子どもはだれも、小さな心の中に大きなゾウを育てているのだ。この絵本の作者は、そのことをよく知っている。だから、ゾウと一緒におふろに入ると、お湯がジャバジャバあふれるし、湯船がピンクのあかでベットリになる。ゾウがバスタブに入れるかどうかなんて関係ないのだ。一緒に寝ると布団を全部取られちゃうし、いびきで窓がガタガタ鳴る。ピクニックに行くとお菓子をみんな食べてしまう。ゾウの得意な遊びは、ゾウ跳びや鼻飛び。でもかくれんぼは苦手(だって大きいからすぐに見つかっちゃうんだものね)。

 こまっちゃう、こまっちゃうと言いながら、主人公の少女の心の中で、大好きなゾウのイメージがドンドン膨らんでいく。それはゾウのぬいぐるみを抱えた少女のイリュージョンでもあるのだが、それを自由に飛翔(しょう)させる作者のしなやかな感性と、小さな少女と大きくて優しくて包容力のあるさまざまなゾウの姿を微妙なコントラストでユーモラスに展開してみせる、作者の闊(かっ)達で軟らかな筆遣いがまた楽しめる。(野上暁
産経新聞 1999.02.02