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「此所太田の神社に詣(まうづ)。実盛が甲(かぶと)、錦の切あり。往昔(そのかみ)、源氏に属せし時、義朝公より給はらせ給(たまふ)とかや。げにも平士(ひらさぶらい)のものにあらず」 これは『おくのほそ道』で、芭蕉が北陸路、小松の太田神社を訪れ、斎藤実盛の甲をみたときのエッセイ。この最後にあるのが有名な「むざんやな甲の下のきりぎりす」という句である。実盛というのは加賀篠原で奮死した老武者で、木曽義仲の幼いころの恩人でもある。芭蕉がこんなふうに書くくらいだから、さぞ立派なものだろうと想像はしていたものの、今にいたるまでどんなものかみたことがなかった。 その写真がドカーンとのっていた。正面に「八幡大菩薩」と彫りこまれた甲はなかなかの迫力で、なるほどこれかと感動した次第。 図や写真というのは、想像力を限定してしまってよくないという人も多いが、想像力をさらに刺激することも多い。この本は『おくのほそ道』の原文を大きめの活字で組み、そのまわりを写真や古地図、蕪村や芭蕉自身の絵、あるいは浮世絵などで埋めてある。江戸の雰囲気を味わいつつ、原文を楽しもうという好企画だ。(後ろには山本健吉による現代語訳 もついている) 古文に限らず、勉強というのは、苦しむより楽しんだほうが勝ち!(金原瑞人)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1989/05/28
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