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オランダの女流作家エルス・ペルフロムさんが来日し、東京ブックフェアで行われた座談会でご一緒する機会に恵まれた。彼女の作品はこれまで『小さなソフィーとのっぽのパタパタ』が邦訳されているが、なかなか凝った構成の印象深いファンタジーだった。 しかし、来日に合わせて出版されたこんどの『第八森の子どもたち』は、前作とはがらりと変わって、自伝的な要素の強いリアリズム作品である。 ペルフロムさんは1934年生まれだから、多感な少女期をちょうど第二次大戦のさなかに過ごしている。 この物語の主人公である少女ノーチェも戦乱に巻き込まれた故郷を追われ、父親とともに田舎の農家に疎開する。 農家の夫婦には重い障害を持つ姉と元気な弟の二人の子供がいて、ノーチェは専らこの弟と、自然の中での遊びに興じる。 作者は、都会の少女の目に映る自然や、当時の田舎の農家の暮らしぶりを、細やかに再現していく。また、障害者とごく自然に共生している家族のようすなども、リアリティーあふれる筆致で描き出されていて圧巻だ。訳の苦労も偲ばれる。 戦況が進むにつれて、農家にはさまざまな家族が転がり込む。さらに、近くの森の地下壕には、ナチスの目を逃れて、ユダヤ人の家族が隠れ住んでもいる。そうした人たちを支え、暮らしを切り盛りしているのが、農家の主婦ヤンナおばさんだ。ヤンナおばさんには敵も味方もない。困っている人間を助けるというあたり前の事をしているだけだ。こういう肝っ玉母さんみたいな人、日本にだっていたよねえ。 ともあれ、ヤンナおばさんは、ユダヤ人一家から生まれたばかりの赤ちゃんを託され、ナチスの目を欺きながら皆で育てていく。しかし戦争が終わったとき、ユダヤ人一家の姿は地上から消えていた。ノーチェもまたこの農家での思い出を胸に都会に帰っていく。 静かな感動を呼び起こす幕切れだ。 さて、もう一冊ご紹介するのは、たかどのほうこさんの『のはらクラブのこどもたち』。たかどのさんの作品は最近『十一月の扉』をこの欄で取り上げたが、新作は幼年向きの楽しい絵童話だ。ヤンナおばさんを思わせる「のはらおばさん」が、ある日、子供達を集めて野原を散歩しようと思いつく。 やって来たのは、すずちゃん、カーラちゃん、こんちゃんといった、何となくいわくありげな名前の子供達。 野原を散歩しながら、草花の名前の由来を語り合っていくうちに、読者には子供達の正体がわかってくるという楽しいしかけの本だ。 本書はたかどのさん自身が挿絵も描いているが、できればもう少しリアルに植物や動物を描き込んで、カラーの大型絵本にしてほしかった。(末吉暁子) |
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