だいあもんど

長崎夏海作
佐藤真紀子絵/新日本出版社/1999

           
         
         
         
         
         
         
     
 ムカツク、キレる、逆ギレする。なんていうと、それだけで大人たちの感性を逆なでするに違いない。しかし作者は、そんな事をまったく意に介さず、乱暴で荒っぽい言葉を投げ合い、お互いにバトルを楽しみながらうっとうしさを弾き返す、元気でしたたかな子どもたちの日常を軽快に描いてみせる。といっても、やはり彼らはクラスのちょっとはみ出した少数派。
 みんなは集団登校だけど〈あたし〉は勝手に個人登校。その方が厄介でなくてい。教室に入ろうとすると、ドアの上から足が降ってきて、前を行く美穂の首に巻きついた。美穂は悲鳴を上げ泣き出した。カイトと〈あたし〉は、しょっちゅうバトルをやっている。それで、〈あたし〉と美穂を間違えたのだ。〈とっきん〉は「やべえよ」を繰り返す。〈あたし〉とカイトと〈とっきん〉は、いつも一緒。禁止された十円玉ゲームでお金のやり取りしたり、スーパーのエスカレーターで逆上り競争したり、洋服売り場で隠れんぼしたり。あげくは店員と鬼ごっこになる。マッチをすって雑誌でたき火をし、通報され担任にしぼられたり。母親が再婚するのでカイトは転校する。

 中学進学を前に、それぞれに難問を抱えた三人の屈託のない日常を活写しながら、彼らなりの生きざまを前向きにとらえ、そこにエールを送る作家の身の置き所が爽やかで心地よい。(野上暁)
産經新聞1999/09/29