大統領をめざした少年


ウオード・ジャスト

西田佳子訳・講談社文庫

           
         
         
         
         
         
         
         
    
ウオード・ジャストの『大統領をめざした少年』 (西田佳子訳・講談社文庫・六八○円)は、じつに骨太の政治小説だ。主人公は、大学で社会政治学を学んだのち、選挙の世論調査を頼まれたのをきっかけに政治の世界にはいることになったジャック・ガンス。
ガンスは頭脳明晰 (めいせき)な天才肌の政治家でもなければ、カリスマ的な魅力を持った政治家でもない。彼を支えているのは綿密な捜査、的確な判断、そして複雑な人間関係だ。
そう、これは政治をめぐる人間模様を巧みに描いた良質のエン夕ーテインメントと言うべきなのかもしれない。特に、この作品のテーマのひとつになっている、脱税で逮捕された実業家の父親とガンスとの関係が抜群に面白い。
ブリッジが好きだった父親がボロボロになった卜ランプを手に刑務所から出てきたのをみて、ガンスは新しいトランプを渡す。父親は一瞬目に涙を浮かべるが。
救いがたいほと頑固な父親とガンスとの関係が強烈な印象を残す。
読みとばすのがおしくて、すみからすみまで、じっくり味わいたくなる小説である。(金原瑞人)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席