大統領の英語

松尾弐之

講談社新書


           
         
         
         
         
         
         
     
 なんだかんだいいながらも、日本の若者にとっていちばん興味のある国はやはりアメリカだと思う。しかし、この国、意外とわからないことが多い。少なくとも、大根役者上がりであくの強いタカ派のレーガンが、なぜいつまでも大統領をやっているのか、ぼくにはわからなかった。
 だから、『大統領の英語』は、思わずうなってしまうほどおもしろかった。これはケネディ以降レーガンまでの大統領の性格と業績を、興味深いエピソードと演説(英文に訳文がそえてある)を交えながら、わかりやすく鋭く解説した本なのだが、大統領の内政に重点を置いて解説しているのが特色。これを読んで、ぼくはレーガンの人気を納得してしまった。レーガンは「頭脳は大したことはないが常識はタップリ」の市民的な大統領で、内政にとても精力的なのだ。レーガンの章の見出しは「レーガン・巧みな物語の語り手」。
 語り手といえば、この著者もなかなか巧みな語り手で、とくにウォーターゲイト事件で辞職したニクソンの章は最高。まるでユーモア小説を読んでいるような気分になってしまった。ちなみに、この章の見出しは「ニクソン・言い訳がましい文体」である。
 六人の大統領の英語を楽しみながら、アメリカを知り、アメリカの現代史にも強くなれるという、コンパクトにしてぜいたくな一冊である。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1987/11/29