でぶっちょミケーレ

スザンナ・タマーロ:作
林 直美:訳 ユーシープランニング 1995.5

           
         
         
         
         
         
         
     
 現代社会が人々の心に引き起こす歪み。その歪みに最も影響を受ける子供たち。作者夕マーロは短編小説では子供を主人公に、残酷なまでに愛に飢えて変形する心を描く。ここでは一転、音やリズムの言葉あそびがおかしいナンセンス・ファンタジー。いやいや、その中にやはり、子供への大人の精神的暴力や社会の歪みが垣間見える。
 ミケーレは八歳。両親が離婚したため、母親と二人暮らしだが、母親は仕事に忙しくひとりぼっちの時間は長い。退屈なミケーレの唯一の友達は台所のレーゾーコくん。彼が与えてくれる食べ物をどんどん食べると心がほっかりするんだ。けれど母親はミケーレの肥満に大ショック。とてもこんな醜い子供は「スマートできびきびした」ライフスタイルに合わないというわけだ。ミケーレは早速ダイエットに突入。例外はおばあちゃんの田舎ですごす休日。甘いものをたくさんたべてもちっとも体重は増えないし、おばあちゃんからはたっぷりおとぎ話を聞ける。
 けれど、家に帰ったミケーレはまたまた太って、ついに全寮制のミルミルヤーセル学園に入れられてしまう。「規律と意志」をモットーとする厳しいダイエット生活。ようやく森の中へ逃げ込んだミケーレが出会ったのは、イタチのイタッチ。彼の案内で連れて行かれた先は珍妙不可思議なフンクソッケン博士の研究所で、「シボーの騎士」となったミケーレは、こうもりに姿を変え、夜の街を偵察する。「自分の子供に満足している親がいない」のは、夢を奪われてイライラと暮らしているからだと結論づけた博士は、その夢を奪う怪物、海底に住むシャイから夢をとりもどす任務をミケーレに言い渡す。はてさて・・・楽しく、おかしく、馬鹿馬鹿しいと笑い、ハッピーエンドに心やすらぐが、大人が読むと心がどこかキリッと痛み、どこかひんやりと冷たく感じるそんな物語である。(高田 功子
読書会てつぼう:発行 1996/09/19