DOROPS(ドロップス)

ヤンデツァンガー

天沼春樹 訳 中釜浩一郎 絵 パロル舎

           
         
         
         
         
         
         
     
 後で思い出してみると、何であんなことで悩んでいたのだろうと思うことは、誰もが経験する。特に十代の、誰にも打ち明けられない内面の不安や悩みや疎外感や孤独感は、ときとして全世界を敵に回しているかのような錯覚にさえ陥らせる。
この小説の主人公、十六歳のフランク少年もそうだ。友達と夜の町でタバコの自動販売機が壊れているのに腹を立てて事件を起こす。もうすぐ大人になる不安定な時期の、混濁した少年の心の揺らぎが、一人の少女へレーンに対する思いと重なり合って、さらに不安を増幅する。自分は袋半分のキャンデーほどの価値しかないのかと思い詰めたフランクは、それから再び夜の町で事件を起こして警察に捕まってしまうのだ。そして、厳しい取り調べの後に家へ帰ったフランクは、肺炎にかかり高熱を出して昏倒する。この事件を契機に、ヘレーンや両親や担任の先生が、自分のことを心配してくれていることに気付くのだが、彼はまた身に覚えのない事件の容疑者にされるのだ。フランクを巡る愛と憎しみが幾重にも綾をなし、事件は予想外の展開をする。オランダの作家の作品だが、現代を生きる青春群像にしなやかに寄り添って、この世代に共通する内面の光と陰を鮮烈に浮かび上がらせる。訳文も作品の世界にピッタリで歯切れがよい。(野上暁)
産経新聞1996/07/26