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物語に入る前に付いている解説に、アイルランドには「クーリーの牛捕り」という国民的神話叙事詩が残されているとある。 この物語はカナダからアイルランドの親せきに遊びにきたローズマリーとジェイムズの姉弟が、時を駆けるドルイド(古代ケルト族の宗教ドルイド教の司祭・賢者)の力で「クーリーの牛捕り」の時代へタイムトリップするところから始まる。 二人は〈クーリニャの褐色の牡牛〉を奪うために、アルスターに侵入したコノハト軍に捕らえられる。ジェイムズはすぐれた戦士の手で戦闘術を習得し、偶然にコノハト軍を単身くいとめようとするアルスターの若き英雄にして神の子クーフーリンの御者兼従者となり、この英雄の瞠目(どうもく)すべき活躍に協力する。 一方、姉は侵略軍コノハトの王女とともに暮らし、王子の一人の恋人となるが、やがて弟とおなじくクーフーリンの従者となり、アルスターとコノハトの最終戦争を眼前にしながら、今へともどる。 既訳の『妖精王の月』『歌う石』より以前の作品であるためであろう、ケルト的神秘の雰囲気が不足で、話の運びにご都合主義が目につく。 それだけ、戦闘場面、英雄的行動、男女の愛、友情などが、やや誇張されて描かれ、読みやすい楽しさを生み出している。 三冊の中では、いちばん読みやすく面白い。(神宮輝夫)
産経新聞 1997/03/25
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