動物たちの霊力

中村禎里

筑摩書房 1989


           
         
         
         
         
         
         
     
 昔の日本では、「狸」は「ネコ」を意味することもあったという。
 これは『動物たちの霊力』を読んではじめて知ったことで、この部分は次のように続く。「これはある意味ではあたりまえで、当時の中国語の狸は、ヤマネコやジャコウネコなど、ネコに似た野生動物をひっくるめてよんだ名前だったのです。日本にはジャコウネコは生息しておらず、ヤマネコも日本中心部では弥生時代以後は絶滅していました。そこで奈良・平安時代の人は中国語のイメージをはっきり理解することができなかったのでしょう」
 ついでに、この本によると「わに」という動物も、ワニ・サメ・ウミヘビその他をふくめた不特定の動物をさす民族名だったという。そのうえもっと面白いことに、古代日本の豪族に「わに」という氏の名を持ったものがいて、どうも動物の「わに」と無関係でもないらしい…… といったぐあいに、神話や昔話や説話に登場する動物についての楽しいエピソードをまじえながら、さらにヘビ信仰やキツネ信仰などもとりあげながら(これには仏教や神道も深くかかわってくる)、昔の日本人がどのように動物とつきあってきたかをさぐったのがこの本なのである。
 「へーえ、ふーん、そうかあ」などといって読んでいるうちに、動物園にタヌキをみにいきたいような気にさせられる本です。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席89/12/03