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幼い子どもを抱えたシングルマザーが、生活保護を受けながら喫茶店の片隅で書いたというハリー・ポッターシリーズが、世界的な超ベストセラーとなって話題を呼んだ。作者のJ.K.ローリングは、一躍億万長者になったということから、ファンタジーや童話に対するビジネス的な熱い視線が世間に充満している今日である。そこにタイミングよく登場した本書は、人気童話作家で大学教授の著者による作家入門書であるばかりか、物語発想法、童話作家の生態学、二足わらじの処世術、児童書出版界の内幕本、編集者論、などなどと実に多様に楽しめる痛快でユーモラスなエンターテイメントでもある。 十六年前、当時大学の非常勤講師だった著者は、電車の網棚に捨て置かれた夕刊紙「日刊ゲンダイ」を拾って読み、そこに掲載されていた〈講談社児童文学新人賞〉の記事を目にとめて応募したことから童話作家になったと、同僚の某教授に言いふらされているという。ローリングの貧乏物語とはひと味違って結構笑えるエピソードだが、その風説に著者は断固抗弁して、その真相を明らかにするところから童話作家への道程を語っていく。 著者が初めて作品を構想するプロセスはなかなかユニークで、エンターテイメント発想法としてこれから物語を創ろうとする人には有益であろう。応募作品が見事入選を果たした著者は出版社に呼ばれ、「新人賞と取ったくらいで作家になれると思ったら大間違いよ」と編集者に言われたのに発奮して、授賞式の前に第二作を書き終えたというから並々の才能ではない。こうして誕生した『ルドルフとイッパイアッテナ』は、数十万部のベストセラーになって現在も読み続けられている。第二作の『ルドルフともだちひとりだち』は野間児童文学新人賞を受賞し、現在までに百冊を超える作品を送り出している。終章「児童文学の経済学」の〈作家殺すにゃ刃物はいらぬ。ひきだしひとつあればいい〉の一言は、平気で原稿を寝かす今日の出版界や編集者の在り様を鋭く抉り、考えさせられるものがある。(野上暁 産経新聞) |
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