たべちゃうぞ

木村泰子作・絵
至光社

           
         
         
         
         
         
         
    
 「背が低いせいか、ちいさい動物や虫や魚が大好きです。弱肉強食のきびしい大自然の中で、一生懸命生きようとして、パクパク食べたり、食べられそうになって、逃げまわったり……。それなのに、ちっとも深刻ぶってなくて、そらっとぼけていて、のん気で自由。生きるための、食べ物さがしの他に、ほんのちょっとの時間があったら、彼らはきっともの好きで、お人好しな連中ばっかりじゃないだろうか……。」これは作者の言葉です。
 そんな動物たちの世界を独自のユーモアのセンスで描き出し、理屈ぬきに楽しい絵本となりました。最初のページを開いたとたん誰でも、いったい何が始まるのだろうと期待に胸をはずませるでしょう。
 木村泰子さんの第一作めの色刷り絵本です。イギリスと西ドイツでも出版され、国内、海外ともに子どもたちの間で絶大な人気があります。

 『野生の王国』という番組がある。食事とこの番組の放映時間がうまくかちあえば、かならず見ることにしている。大きいやつから小さいやつまで、さまざまな動物が登場し、その生態を示してくれる。そのふしぎさに、時どき、それらをつくったはずの神様の顔を見たくなってしまう。人間は地球上で威張っているけれど、なんだ、おまえも動物なんだぞといいたくなる。密林の中で、川岸で、それぞれの生活を営んでいる生きものたちを、改めて畏敬の念をもって見なおす。
 こうしたことと、木村泰子の絵本と、どこかで結びついているのだろうか。それは、じぶんでもはっきりとわからないのだが、現実に存在する動物たちへの驚きとおそれは、ぼくの場合、同時に、木村泰子の創造した動物たちのへそれと、何の不都合もなくひっついてしまう。水中ではなく、地上の空間を泳ぐ魚に、何度眺めかえしても、感動するのである。『たべちゃうぞ』という題からして好きなのだ。(上野瞭)
絵本の本棚 すばる書房 1976
テキストファイル化北原志保