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がんに冒され、死に直面した九歳の少年の切実な問いかけに答えた著名な精神科医の返信の全文が、美しい絵本になった。 末期医療や臨死体験の研究と実践で知られるキューブラー・ロス女史のもとに届けられた少年の手紙には、三つの質問が書かれていたという。 「いのちって、何? 死って、何? どうして、小さな子どもたちが死ななければいけないの?」 太陽に照らされた地球の上に、さまざまないのちが生まれてきて、花も木も人も、それぞれの役目をはたすのだ。それをあまねく照らしだす太陽のように、神さまはじっと見守っていてくれるのだ、と女史は書き始める。 娘のフェルトペンを借り、さまざまに色分けして、イラストも入れて、女史はていねいに書き続ける。人生は学校みたいなもので、そこで私たちは、まわりの人たちとうまくやっていくこと、正直であること、愛を分かち合うことなどを学ぶのだ。そして、「この世でやらなければいけないことをぜんぶできたら」、人生という学校を卒業し、からだがとじこめていた魂を自由にしてやることができる。それが「死」なのだという。 この手紙を受け取ったダギー少年は、きびしい病状であったにもかかわらず、その後四年間生きつづけることができた、という。狭い特定の宗教にとらわれることなく、いのちをめぐる「摂理」を説いて、説得力がある。(斎藤次郎)
産經新聞98.08.04
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