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早川書房のファンタジー文庫も、年々増える若い読者と熱烈なファンに支えられて、はや百冊近くになったが、なんとタニス・リーの作品がそのうちの十分の一以上を占めている。彼女のファンタジーはよくも悪くもオーソドックスなのだが、その人気の原因は、語り口のうまさと、どの作品にもあふれている妖しい雰囲気にあるのだろう。そういった特質がいかんなく発揮されているのがここで紹介する『タマスターラー』だ。 この作品はインドの過去、現代、未来を舞台とした七つの短編からなっている。なかで群を抜いて光っているのが「運命の手」。花街に生まれたたぐいまれな美貌の青年がバス事故で醜く変わりはて「隻腕の乞食となって」さまよい歩いたあげく詩人となって名をなし、弟子たちに見まもられて聖者として死んでいく物語と、同じく花街に生まれ、その美貌の青年と結ばれると予言されながらも結ばれることなく、やはり数奇な運命をたどる美しい女の物語とを、エキゾチックな背景のもとに巧みに織りあげ、その織りあげた模様を最後で、またたくまに無に帰してしまう作者の手腕は見事というほかない。 これまで出ているタニス・リーの作品のなかでは、これが最高傑作といっていいだろう。 翻訳も文句なし。やわらかな感性と、驚かされる楽しさを忘れていない大人たちにもお勧めの一冊。(金原瑞人)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席
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