楽しい鉱物学・基礎知識から鑑定まで


堀秀道

草思社 1990

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 東京神保町の高岡商会という紙屋になぜか鉱物の標本も置いてあって、コピー用紙を買ったついでなんかに、きれいに結晶した黄鉄鉱やアクアマリンの小さな標本をつい買ってきてしまう。安いからってこともあるんだけど、なぜか謎めいた魅力があるんだな、これが。ロシアやドイツの幻想作家が鉱物に題材をとった作品をたくさん書いているのも当然だと思う。そうそう、宮澤賢治も、子どもの頃は「石ッコ賢ちゃん」と呼ばれたほどの鉱物マニアだったというし。
 さて今日、紹介したいのは『楽しい鉱物学・基礎知識から鑑定まで』。 鉱物学の格好の入門書だ。岩盤中にあるときはライラック色の塊だけど、日光にさらすと灰色になってしまい、遮光して保存すれば一度消えたライラック色が復活するという珍しいハックマン石の話、めのうのあるはずのない鎌倉の海岸でめのうがとれる理由、緑茶を使っての鉱物の鑑定法、ひすいと考古学をからめた松本清張の短編ミステリー「万葉翡翠」の話など、興味深い雑学的な知識から、鉱物鑑定の道具の選び方、それぞれに違う結晶の形、原子構造、化学的な性質といったかなり専門的なところまで、とてもうまくまとめてある。「エメラルドがもっとも美しく見えるのは研磨されて宝石になってしまったものではなく、その天然の結晶が母岩についているときだ」という著者の案内する鉱物の世界に、ぜひ一度遊んでみてください。石のつぶやきがきこえてくるかもしれません。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 90/09/09