天国に近い村

シンシア・ライラント作
中村妙子訳/ささめやゆき画 偕成社 2001

           
         
         
         
         
         
         
    
<天国に近い村>ってどこにあるんでしょう? それは<天国に直行しない人たち>のために神さまが用意された、天国までのひと休みの「息つぎ」の場所なんです。
 つまり、天国の一部ではありますが、さまざまな事情で地球に思いを残している人たちが、地球の人たちと交信できる場所。そこで人びとは地上にいた時と同じ日課を過ごし、そして好きな時に、地上に残してきた愛する人びとを訪れ、また大好きなイヌやネコが天国へやってくるのを待ちます。そんなすてきな<天国に近い村>で暮らす人びとの物語が、暖かいユーモアとのびやかな空想力を持ったペンで描かれています。
 たとえば、物を数えることばかりが習性となり、<美>を感じる心を失ったまま四十六歳で死んだ男性エヴァレットさんは、天国へ漂っていく途中で美しいクモの巣や海辺の光景と出会い、もう一度生きなおしたいと思います。するといつのまにかこの村のベンチにすわっていて、エヴァレットさんは、村の人に地球の時間を知らせる<時間係>に任命されるのでした(もちろん村は時間の外の永遠の中にあるんです)。
「人間は死んだりなんかしませんわ。べつな場所にうつるだけですのよ」というのは、村の住人のドリスおばあさんの言葉。
 特に、愛する人や動物をこの世で失った悲しい体験を持つ読者に慰めを与えてくれるだけでなく、すべて私たちに必要なものを思いがけないやり方で備えてくださる神さまのみ業の不思議さを、この本は軽やかに示しています。
 作者は、アメリカのすぐれた児童文学に与えられるニューベリー賞を『メイおばちゃんの庭』で受けており、本書のテーマにも似た愛らしい絵本『いぬはてんごくで…』や、『十月のみずうみ』『人魚の島で』など心に残る作品が、日本でも翻訳紹介されています。(きどのりこ
『こころの友』2001.09