天のシーソー

安東みきえ作/理論社

           
         
         
         
         
         
         
    

 なにげない日常。でもその中で子どもたちは根源的な不安をかかえて生きています。この世の中にまだしっかりつながっていないという寄る辺なさ、他者を思いやりながらも不器用にふるまってしまう痛み…。そんな子どもたちの心模様を、しなやかに捉えた作品に出会いました。
 小学校五年の女の子ミオの物語は、六つの連作短編からなります。
 ミオは、「なにかのつもりになってみる」ことが特技の、想像力豊かな子ども。小さい妹のヒナコや母親としょっちゅう仲違いをしますが、心の奥に相手への思いを秘めている、そんな女の子です。
けれども、「みかけだけで人を決めたがる」大人、怒っていても電話口に出たとたんに優しい声音になる大人に反発し、ミニ家出を試みるのが「ひとしずくの海」。
中学生のサチエはミオに、目を閉じさせたまま手をつなぎ、家に連れ帰る「目かくし道」という遊びをしてくれます。同じ家なのに、秘密の道を通って帰った場所は光にあふれていました。
 サチエはコンビニにたむろする、ピアスの少女ですが、その魂がいつも居場所としての海をもとめていることをミオは感じとります。
 子どもたちが呼び鈴を押しローラーブレードで逃げるいたずら。「マチンバ」はそれを繰り返されているおばあさんが、意地悪な魔女ではなく、子どもたちにチョコをあげるために待っていたという話ですが、張本人のミオとヒナコの姉妹の間にも優しさがよみがえります。「ラッキーデイ」は、まったくついていなかったミオの一日の最後の小さな出来事。耳の不自由なお兄さんの折り畳み傘を拾ってあげると、手のひらに「ありがとう」と書いてくれます。それは小さな奇跡のよう。ミオは彼の背中に、折り畳まれた天使の翼のもりあがりを見るのです。
 第十一回椋鳩十賞を受けたこの作品は読み応えあるものでした。(きどのりこ
『こころの友』2001.07