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今世紀最後の降誕節。振り返ると世界は、この百回のクリスマスの間に何と引き裂かれ、争いと流血とを繰り返してきたことでしょうか。でもクリスマスのたびに、愛と平和をもたらす和解への望みは、はかり知れない恵みとして根 気よく訪れます。ナザレの馬小屋のできごとは、私たちのための魂の物語であり、それをめぐってまた多くのイマジネーションが人びとに与えられ、多彩なクリスマス物語が生まれました。また、多くのすぐれた児童文学の中にも、ク リスマスの情景を描いたものが多く見られます。 心をこめて編まれたこの本には八つの国の十二の物語が収められています。クリスマスの炉辺で古くから語られてきた話もあれば、現代の日常の中で生まれた話もあり変化に富んだ構成で、それぞれの国と言語に詳しい人びとが、訳とともにその国のクリスマスと物語についての解説をつけています。 まずブラジルからは、街角の「プレゼビオ」と呼ばれる聖誕の飾りつけをめぐるホームレスの女性とストリート・チルドレンたちの印象的な物語。そしてアメリカからは、現代の子どもたちの聖誕劇で宿屋の主人を演じた九歳のウォリーの心暖まるお話。韓国からはかわいらしい動物たちのクリスマス。ドイツはご馳走用のガチョウをどうしても殺せず、一緒にクリスマスを祝う夫婦の、ユーモアある作品。フランスからは、天地創造の時のエバが幼子イエスにリンゴを持ってくるという想像力に富んだ物語。そして、イギリスのオスカー・ワイルド作「わがままな大男」、スウェーデンのラーゲルレーヴ作「聖なる夜」、「靴屋のマルチン」として知られるトルストイの「愛あるところに神あり」の全訳といった、クラシカルな名作も収められています。田中槙子さんの暖かい装画とともに、クリスマスの心を伝える一冊です。(きどのりこ) 『こころの友』2000.12 |
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