ちいさなアルベルト

アルベルト・マンゼル/作 田中安男/訳
ベネッセコーポレーション 1989

           
         
         
         
         
         
         
     
 これは五〇年前にスイスのアッペンツェル地方に住んでいた、アルベルト、という名の一人の男の子のお話です。
 アルベルトは自分の家の農場を手伝って、牛の乳を絞ります。丘をかけくだって、三〇分以上かかる町の学校へも行きます。
 農場で忙しいお母さんのかわりに、学校の帰りに買い物だってします。町の通りの美しいお菓子やのショウ・ウィンドウにみとれたり、川で魚を捕まえたりもします。
 寒い冬、山の牧場から牛たちを連れて降りてきたり、雪の中を牛にエサをやったり、そりすべりだってします。
 ここに描かれているのはお金にはかえられない豊かな暮らしと美しい自然、そうしてそこで暮らす健康で幸福な人々です。
 でも、この本の素晴らしいのはそこだけじゃないんだ。
 アルベルトは絵を描くのが好きでした。そうして大きくなって一流の菓子職人になりました。
 でもやっぱり絵描きになりたくって勉強しなおし、そして夢がかなったアルベルトは、自分の五〇才の誕生日にこの絵本を創り、自分に贈ったのです……。
 地味で長い本ですが、クリエイターの子には“ひびく”でしょう。
 クリエリターに生まれついた人間が幸福になるのは、本当に大変なことです。そうなるには決して逃げず、自分の邪悪さをコントロールし、他人と競争するのではなく、美の神へ最高の献げ物をするために、不断の努力をしなくてはなりません。がんばってね。(赤木かん子
『絵本・子どもの本 総解説』(第四版 自由国民社 2000)
テキストファイル化佐藤佳世