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夢は第二の人生であると言ったのは、フランスの詩人ネルヴァルだが、夢の不思議さや暗示性が、まるでもう一つの人生ででもあるかのように人の心をとらえる瞬間は確かにある。この物語は、夢幻的な世界をしっかりとした描写力で現実に引き寄せて、現代人にとっての夢や想像力の不思議な力とその大切さを鮮やかに浮上させ、索漠とした心に豊かな潤いをもたらせてくれる。 主人公のサラリーマンは、落ち込んで気をめいらせているときに、部屋の本箱と壁のあいだの細いすきまからひょっこり現れた、人さし指くらいの大きさの王様に出会う。でっぷりと太った気まぐれな王様は、主人公が平日に会社を休んだときに、会社へ連れて行けと迫る。しぶしぶ胸のポケットに王様を忍ばせて毎日通う道を歩いていると、いつもの風景がまるで違ってみえてくる。王様の世界では、生まれたときにすでに大人で、齢を重ねていくうちに、体も心も次第に小さく幼くなっていくのだという。つまりそれは、人の人生の逆をいくことなのだが、成長や成熟とともに喪失していく人間の想像力のアナロジーでもあるのだ。 人は誰もが想像力という小さな王様を持っている。それを枯渇させることを、小さな王様は怒っているのだ。随所に登場する精密なカラーイラストと、ふん反り返った王様のキャラクターに妙な存在感がある。 (野上 暁)
産経新聞 1996/11/26
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