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テレビや映画でたまに目にするニューヨークの地下鉄は、車両も駅も落書きだらけ。あれだけ落書きがあるってことは、一目を盗んでいろんなことができるってことだ。例えば、そこに住みついてしまうとか。そこで、フェリス・ホルマン作『地下鉄少年スレイク』(遠藤育枝訳、原生林)の話。 孤児で、チビで、近眼の一三歳のスレイクが住みついたのは、駅と駅とを結ぶトンネルにあいた小さな穴。家でも学校でもいじめられっぱなしの地上の生活より、地下で自活する方がよっぽどまし、と思ったわけだ。 でも、弱虫のスレイクに、自活なんてたくましいことが急にできるはずがない。相変わらずオドオドしながらボーッとしているだけだ。なのに、何気なく拾った古新聞を買ってくれる人がいたり、掃除を手伝うかわりに食事をさせてくれる店あったりで、いつの間にかちゃんと生計の道が立ってしまう。そのあたりが読みどころ。 この妙に包容力のある地下の世界には、思わずワクワクしてしまう。かっこよくないスレイクだけど、本の作りはとってもオシャレで、それも魅力の一つ。(横川寿美子)
読売新聞 1989/11
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