モリ-ンハン夕ー作
田中明子訳 評論社

           
         
         
         
         
         
         
     
 モリー・ハンターは、いつも妖精はこの世にいるのだ、実際に-という前提のもとに自分のストーリーを組み立てる、というちょっと奇妙なやり方をしている作家です。
 でも、このハンターの代表作になるだろう『砦』だけは妖精とは関係ない話んですけどね、ちょっと蛇足。
 スコットランドの海岸一帯に、ブロッホ、と呼ばれている奇妙な円型の石の建物があります。これは実際にあるのよ。同じ設計のものが五百以上あるそうで、いまだに、誰が、何のためにつくったのかわかっていません。
 それも何千年もかかって、ようするに民衆のあいだから立ち上がってきた、というものではなく、それを設計した設計師、個人の知性を感じさせるつくりなんだそうな……。
 で、これはハンターが自由につくり上げた、そのブロッホをつくった男の物語なんだ。
 一つの集落のなかで自分の地位を確立するためのあれこれの戦い……。
 ローマ軍に村が襲われ、両親が殺された時に彼も岩にたたきつけられ、腰の骨を痛めて不具になるんだけどさ、その時のトラウマ、恐怖や悪夢から逃れるために、彼はのちにブロッホを考え出すのね……。
 人が幸福に生きるためには共同体のなかで認められること、配偶者を得ること、満足できる仕事があること……この三つに尽きますが、これはそのために知力を尽くした一人の男の物語です。物語を読んだ〜という充足感が味わえます。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ ヤング・アダルト入門 図書館員のカキノタネ パート2』
(リブリオ出版 1998/09/14)