東京合衆国

高野生

新潮社

           
         
         
         
         
         
         
    
 今年も「東京デビュー」した新人たちで街はにぎわっている。この大都会に暮らす青年たちを描く小説『東京合衆国』が書くように、たしかにここは、移民たちの夢の祖国なのかもしれない。
 主人公セイは、中学を中退した作家。オリバー・ストーンと60年代を愛し、自由を実現できる自分の祖国を求めている。子供服のブランドしか着られない恋人のササミは、ときどき死の発作に見舞われながら、大検に挑戦している。生きることの不確かさをそれぞれに抱え込んだ二人の、危うい恋の物語だ。
 セイが住む海岸通りのアパートを起点に、ふたりはデートであちこちを巡って歩く。Bunkamuraにある美術館、東京ディズニーランド、葛西臨海水族園、松屋銀座&hellip。東京名所案内のような華やかなデートコースが、まるで生きる苦痛を支え合うふたりの巡礼の旅のようだ。
 二人の物語の間に、それぞれが独立した短編小説のように、挟み込まれている青年達の話がいい。ファーストフードの調理場、地下鉄の売店、工事現場。東京のあちこちで働きながら、それぞれの希望を胸に暖める彼らのストーリーは、互いに無関係なようでいて、どこかで交差している。見果てぬ夢を実現させるため、時に孤独に絶えている〈移民〉たちを、そっと力づけてくれる本だ。(芹沢清実)

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 92/05/03

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