ツバメ号とアマゾン号

アーサー・ランサム

神宮輝夫訳 岩波書店刊「アーサー・ランサム全集・第1巻」

           
         
         
         
         
         
         
         
    
『ツバメ号とアマゾン号』は、イギリスの少年文学作家、アーサー・ランサムの出世作なので、知っている人は多いと思うが、描かれている時代は、一九二十年代あたり。大英帝国が最後の輝きをむかえていた頃の話だ。作品の舞台は、イングランド北部の湖水地方である。
 都会から湖水地方にやってきた女の子4人と男の子2人が、「ツバメ号」と「アマゾン号」という二艘のヨットを、まるでマゼランの頃の「大型帆船」であるかのように操って、湖水地方の湖を「航行」する。湖の小島に「上陸」して、それが熱帯の未知の島であるかのように「探検」し、キャンプする様子が、たのしく描かれる。 この本は、冒険小説ではないかもしれない。
  けれど作品全体が、デフォー作『ロビンソン・クルーソー』とステーブンソン作『宝島』のパロディとなっていて、ユニークだ。
 当然、登場する子どもたちは全員、この二作を暗記するほど読みこなしていて、大航海時代のイギリスの勇敢な船乗りたちの心意気に陶酔している。だからエリザベス朝の冒険と海賊をを真似る筋書きなのだ。小さな子どもたちが大人ぶって「荒くれの船乗り」になりきるところが愛らしくて、おもしろい。
 七つの海を制覇したかつての大英帝国への誇らしさと、海の冒険への憧れから始めた「大航海」ごっこだったが、まめまめしく三度のご飯を作り、思いがけない大嵐にあい、子どもたちが短い夏の間に成長していく。そんな姿がとてもすこやかで、また、夏休みの雰囲気が懐かしくて、気持ちのいい小説だ。 (松本侑子
 
季刊誌「リテレール」の忘れ得ぬ冒険物語特集によせて