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気鋭のノンフィクション作家による、子どもたちの現在を様々に描いた短編集。 児童公園にテントを張っている浮浪者を襲った中学生。小学校のウサギ小屋を襲ってウサギを皆殺しにした小学六年生。いじめられて自殺した子どもをめぐって、学校中がそれを必死になって取り繕う「嘘の一日」を複雑な気持ちで受け止める女の子。ナイフによる事件が多発し、学校でのナイフ狩りが始まり、どうやってナイフを棄てるかに苦慮する少年。子どもたちを巡る事件を素材に、それに関わる少年や少女たちの心象を丁寧に引き出し、大人たちが見逃している子どもたちの、この時代に対する呪詛にも似た危うい感受性を現実と幻想のあわいの中に浮上させて見せる。そしてそれらの物語の導入部に、地球を覆う酸性雨の脅威を寓話的に配し、途中にまた、幼い頃から「子どもは純粋で未来は子どものためにあるなどという大人のおべんちゃら」に我慢ができず「理解とは、その対象を支配したいという欲望にすぎない」と主張する、友人で世界的な画家のエピソードを挿入する。 彼は無免許中学生の運転するクルマに跳ね飛ばされて即死する。地球規模の現実から個々の子どもたちの微細な内面にまで迫り、終章、少年は棄てたナイフの代わりに夜空から月のナイフを手に入れる。なかなか見事な構成で暗示的でもある。(野上暁)
産経新聞1999/11/16
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