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新聞広告で、トールモー・ハウゲンの新作『月の石』を見かけた時は心が躍った。 ハウゲンといえば『夜の鳥』『少年ヨアキム』などで知られるノルウェーの児童文筆作家だが、少年の持つ不安や恐れをぎめ細かに描いた家族のドラマが高く評価されて、1999年の国際アンデルセン賞を受賞した。その年アメリカで行われた授賞式でスピーチするハウゲンは、カッコよかった。 さて、待望の新作は三百頁を越えるブ厚い(しかも二段組の)本だが、読み始めるやいなや引きずり込まれ、一気に読み終えた。 物語は、ある夜、月の神殿の巫女が、鏡に映る月の光が失われているのを発見するところから始まる。光を取り戻すには月の力を感じ取る力を持った者の手で伝説の七つの宝石を手に入れなくてはならない。 ニコライは、その力を持った少年だった。かくして、少年の回りで次々と不思議なできごとが始まる。とまあこういう出だしで始まったからには、最後はめでたく宝石を取り戻して、チャンチャン! となるのであるが、それだけだったら例えどんなに波乱万丈の冒険が待ち構えていょうと、従来のファンタジーを越え るものにはならなかっただろう。 物語は地球的な規模で、七つの宝石をめぐる人間摸様を多面的に映し出す。同時に作者は、虚実取り混ぜた伝説や神話の世界を、時空を越えたスケールで自由自在に再現してみせる。読後、「う〜む、あのカッコよさは本物だったのね。」と遠く北欧の空に向かって、念力で熱いエールを送った私であった。 月に秘められた妖しげな力については、古来、さまざまな芸術のテーマとなっているが、日本のファンタジーの新しい担い手、たつみや章さんの新作『地の掟 月のまなざし』もそうした作品のひとつだ。昨年の野聞児童文芸賞を受賞した『月神の統べる森で』に続く連作第二弾。 描かれるのは、月神を敬い、魔法や呪術が支配する世界と、日の神を崇め、権力支配の構造を持つ物質文明との対立だ。 敵方の巫者シクイルケに命を助けられたワカヒコは、日の神の巫女ヒメカの怒りを買い、獄中に繍らわれる。さらに、ヒメカの重大な秘密を知ってしまった臣下のホムタと、真に巫女としての資質を持つ少女ツユは、ワカヒ二共々、ヒメカに殺されそうになり命からがら脱出する。 月神を敬うムラの社会のエピソードとは対照的に、実に人間臭いドラマが展開するのがおもしろい。作者は、けれん味のない文章でていねいに二つの世界を描写していく。東逸子さんの挿絵もていねいで美しい。 次作が待たれる。(末吉暁子) |
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