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![]() これらの短編は、自分の経験してきた子ども時代や家族をいとおしく思うところに立脚している。江國の興味は常に、子どもと子どもをめぐる家族や人間関係の底に流れる、あたたかさと優しさにあるようだ。「新しい童話」と評されつつ、懐かしさもこめて広く受け入れられているのは、思春期への愛情があるからなのだろう。そこに、ほのかな恋愛模様も付随するが、江國が描くのは男女というよりも人と人とのふれあいである。エッセイのような読みやすさが、余韻を醸し出す一方で、軽さが弱さにつながることもある。 子どもの文学が、自ずと囲い込みをやぶってジャンル分けを無意味化しはじめているのと同時に、大人の文学の側からも子どもの文学へのアプローチがある。境界線がゆらぐとき、ジャンルではなく、作品を読む楽しさとひとりの作家が創る作品世界の味わいだけが残っていくと思われる。(鈴木宏枝) |
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『ユリイカ』1997年9月号