TVゲームと癒し


香山リカ著

岩波書店 1996


           
         
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 昨今TVゲームに関しては、マスメディアの報道も多いですよね。最近では、エニックスの『ドラゴンクエスト』のシリーズ最新作が任天堂のニンテンドウ64ではなく、ソニーのプレイステーションに提供されることとなったニュースが日本中を駆け巡りました。なにしろ『ファイナルファンタジー』シリーズに続いての任天堂からソニーへの移籍ですから、大変な事件。これで十年以上全世界で続いて来た任天堂帝国の黄昏は確定的になり、ソニーの時代が訪れるであろうというのがおおかたの見解。ニンテンドウ64はハードとしては優れているけれどシェアでソニーのプレイステーションに大差を付けられているので負けてしまうのか? また、たまごっちのバンダイがバーチャルファイターとプリント倶楽部のセガと合併ってのも株式市況を巻き込んで大ニュース。
 何が何だか話がよく分からないって方もいらっしゃるでしょうけれど、子どもハヤリ物世界がこれです。
 デジタル物が席巻する子どもシーン。それは社会の有り様をそのまま映し出しているだけ。私たちの日常、炊飯器から掃除機、券売機からドアのキィ、キャッシュカードにCD、デジタルカラオケ、およそありとあらゆるものが、その本来の出自や機能や質や大きさの違いにもかかわらず、デジタル信号によって統御されてしまっていますし、それによる安楽を私たちは享受している。そしてもしそれを手放す気がないなら、子どもシーンで起こっていることも、とりあえずそのまま受けとめておきたい。子どもには、やっぱりアナログなおもちゃがいい、野原で遊ぶのがいい、そうした気持ちも分からなくはないけど、結局それは、私たち大人が自分の理想の子ども像を現実の子どもに押し付けているだけかもしれないのですから。
 ところで、いつの時代も子どもにハヤリ物は大人から批判を受けます。ドリフターズ、マンガ、アニメetc。理由は大人(ハヤリ物の制作者以外)の守備範囲を逸脱したところで子どもが楽しんでいることが不安やったりするからでしょうね。子どもが分からないのがいやってことです。
 この書物、昨今何かと槍玉にあげられるTVゲームについての考察本。これほど愛情深く、しかも冷静にTVゲームを語った本はいままでありませんでしたし、今後これが出発点となるのは間違いないでしょう。中身の詳しい紹介は避けます。読んで欲しい。
 私にとっては昨年のベストワン本であります。(ひこ・田中

げきじょう 45号 1997春