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宮城谷昌光の『重耳』(上・中・下各1600円・講談社)、最近の歴史小説はこれにとどめをさす! 時は戦乱の春秋時代。主人公は辺土の小国である曲沃(きょくよく)の公子重耳(ちょうじ)。物語は重耳の祖父が、仇(かたき)とねらう翼の国を滅ぼさんと東奔西走するところからはじまる。翼をねじふせるに十分の武力はあるものの、翼には周王室の後ろだてがあるうえに、すきあらが曲沃を乗っ取ろうという国もある。この曲沃と翼との確執のなかから、するりと生まれ出たのが、「逃げの重耳」であった。 重耳の一生はまことに面白い。とほうもない大器でありながら、様々な運命にもてあそばれ、逆境にたたきこまれるたびに、さらに器を大きくし、放浪すること19年、ついに中国の覇者として名をとどろかす。魅力的、かつ底知れぬ男である。 作者は、この重耳の数奇な物語を悠揚迫らざる筆で書きあげ、ここに、したたかで、しなやかな語りによる、迫力に満ち満ちた物語が誕生した。「生まれながらにして古典となるべく運命づけられた歴史小説」とでもいおうか、とにかく圧倒的な一作。(金原瑞人)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1993.5 .2
テキストファイル化 内藤文子
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