彫刻家の娘

トーベ・ヤンソン:作 ペル・オロフ・ヤンソン:写真
冨原眞弓:訳 講談社

           
         
         
         
         
         
         
    
    
 ムーミンをご存じですか。丸っこい容姿が愛らしく、どこかユーモラスなムーミン・トロールは、テレビアニメで長いこと幼い子どもたちに親しまれてきました。
 原作はフィンランドの女性作家トーベ・ヤンソンの童話ムーミンシリーズ。北欧の自然の中で生きるムーミン一族や友人たちの愛と悩みと冒険は、少し上の年齢の子どもたちのほか、大人にも愛読されています。そのヤンソンが、大好きだった父(著名な彫刻家。母は画家)を語り、父の腕の中で夢と冒険の日々を生きていた子ども時代を描いた自伝的小説が『彫刻家の娘』です。
 人間と自然を等しく愛し、冒険を好み、そのくせ人一倍心配性の父はムーミンパパそのまま。北欧特有の長い薄明の中で、ひとり入り江にたたずむ小さなトーベが出会う、現実と幻想がないまぜになった世界や海の向こうからわき起こり、たちまち視界を遮る海霧、個性豊かな人びとなど、幼いヤンソンをはぐくんだ世界が、読者の心の中でいつかムーミンの世界と重なっていく……。そんな詩情に満ちた作品です。
 (和)=静岡子どもの本を読む会
テキストファイル化富田真珠子