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学校と仕事に追われて自分を失いかける高校一年生のユ・ーリ。 『チューリップの誕生日』 (集英社・一二○○円)の主人公は、べースの腕を買われて女性ばかりのロックバンドに入る。しかし、週に三、四回はライブがあるため、学校とバンド活動とのあいだで、彼女は次第に疲れていく。 「あたしはふと、何のために働いているのだろうかと考えた。すると、あたしの心は砂まみれの餅のように伸びて、身体の内側をざらさらと擦った」 そんなとき、十歳近くも年上のフジシマという男に出会う。職業不明で、酒ばかり飲んでいる男だ。ボコボコになぐられで、アパー卜に帰ってくることもある。ぞんなフジシマに、なぜか彼女の心はひかれてい。 「服についた埃を払うような何げない動作でノブを廻す彼は、身体中の血液がくまなく成人していた」 ミュージシャンの女子高校生とやさぐれ男のさわやかな出会いと別れを描いた、生きのいい青青小説だ。(金原瑞人 )
朝日新聞1993
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