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「中南米の旅「インディオの耳は/黄昏(たそがれ)に博学な鳥たちの声を聞き分け、/夜の静寂(しじま)に木々のざわめきを、/そして夜明けには/朝日に輝く石ころたちのおしゃべりを聞いている。」 こんな詩句が冒頭に引かれている本、『中南米伝説の旅 太陽の息子たち』(松下直弘著、花伝社発行、共栄書房発売・1600円)。 なぞに包まれた古代遺跡が残るユカタン半島。環境破壊で注目のアマゾン熱帯雨林。またラプラタ流域や最南端地方まで、この本が連れいってくれる民話・伝説でたどる旅は多彩だ。たぶん、ラテンアメリカという地域のもつ歴史的な多重性とでもいうような性格によるのだろう。 自然との一体感が強いインディオの文化に、スペインとポルトガルのキリスト教文化が重なる。そこで、修道院の壁をはうサソリが貧しい男を救うために黄金に変わる奇跡が出現することとなる。カリブ海あたりだと、アフリカから野良仕事が好きな精霊を連れた黒人もやってくる。 色彩の描写がすごい。闇討(やみう)ちで刺された傷口から流れるように鮮血が、ルビーのように輝いてほたるに変身する若者。鳥たちから羽根をもらいながら、自惚(うぬぼ)れが強くなって神の怒りにふれたコウモリ。その体から抜けて一日中降ってくる色とりどりの羽根。−「魔術的リアリズム」の原型がここにある。(芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席1991/06/02
テキストファイル化 妹尾良子
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