ぼくのチョパンドス

小林豊作
光村教育図書 1999

           
         
         
         
         
         
         
     
 テレビや雑誌が提供するおびただしい情報を通して、世界中のさまざまな地域の出来事や人々の暮らしや習慣を日常的に目にすることのできる現在である。とはいいながらも、まだまだ知られていないことはたくさんある。この作家は、中東やアジアのイスラム諸国をたびたび訪れて、これまでもアフガニスタンなどを舞台にしたユニークな絵本を発表してきている。この作品も、中央アジアのトルキスタン平原一帯で、秋から春にかけて行われるブズカシという馬を使った伝統的な行事を軸に、そこで展開する親子のドラマを子どもの目を通して描いてみせる。
 チョパンドスというのは、砂を詰めた一頭の羊を馬に乗って奪い合うブズカシの勝者に与えられる称号である。少年の父親は有名なチョパンドスだったが、戦争で足を失ったために馬に乗ることができなくなって木工で生計を立てている。土で固められた中庭のある独特な住居。そこで暮らす人々の日常が細密に描きこまれていて楽しめる。現地で生活の中に溶け込みながら描かれたに違いない。その空気が確かに伝わってくる。

 そして待ちに待ったブズカシの日。少年の兄が、父親に代わって競技に参加する。一家はまだ夜が明けないうちに村を出て競技場の平原に向かう。大平原の俯瞰から、羊を奪い合う光景に、そして場面はめまぐるしく展開する。馬にまたがった勇者たちがひしめき合って闘う場面は圧巻である。なかなか見ごたえのある絵本だ。(野上暁)
産経新聞99.06.01