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「ある昔、豊後と筑後と肥後の国ざかいのさとに子どもが生まれた」。こんな書き出しで始まる酒呑童子(しゅてんどうじ)は、生まれた時から母の乳よりも酒を求めた。父の手にだかれて、ひさごに口をつけてゴングリゴングリと酒を飲んだ。飲みっぷりもいいが酒呑童子がもらすしょんべんが作物をぬらすと、作物はぐんぐん大きくなり、秋には大収穫をもたらした。近くの人々は酒呑童子を馬に乗せてはこび、やせた田や畑にしょんべんをまいた。まことにおおらかでのびのびと生きている酒呑童子の話のほかに、この本には、七つの話が入っている。 大きくも小さくも、太くも細くもなれる「手ながの目」は、どの指にも目がついていて、百姓(ひゃくしょう)の作った作物をどんなにうまく隠してもねこそぎさらっていく。たいそう気味の悪い化物だ。どの話にもかっぱ、鬼、てんぐなどのおかしな妖怪が出て来るが、みなにくめない。人間が、自分の体と知恵を使って生きていた、おだやかな世界が描かれている。 こどもは、こわいものが大好きだ。こわい話は胸をドキドキさせる。これは強いものに対決し、戦っていく心が出来ているからで、こわい話を聞いたり読んだりすることは、こどもの精神をたくましくすると思われます。 スズキコージのさしえが、この妖怪の住む世界をひときわひきたたせています。(小)=静岡子どもの本を読む会
テキストファイル化上久保一志
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