ナヌークの贈りもの

星野道夫:著
小学館

           
         
         
         
         
         
         
     
 これを書いて写真を撮ってくれた星野道夫氏は、一九九六年の夏、カムチャッカ……だったと思いますが、クマに襲われて亡くなってしまいました。
 おそらくこの写真絵本を読んだことがある人は、何重もの意味で複雑なショックを受けたろうと思います。私のように-。
 この『ナヌークの贈リもの』は、一九九六年一月一日付けで出されたものですが、その裏表紙には〃氷の世界で共に生きるエスキモーとナヌークのあいだには、かつて大切なことばがありました。それは不思議なことばで、狩るものと狩られるものを優しく結びつけ、生と死の境さえなくしてしまうものでした。あらゆる生命はそのことばでつながリ、世界はやすらぎに満ちていたのです-。〃という星野氏の言葉が書いてあリます。
 ナヌークとは偉大な氷原の王者白クマのことで、ここには、ナヌークがイヌィットの少年に語ってくれた、その偉大な言葉が書いてあるのです。ナヌークはアザラシを食べ、アザラシは魚を食べ、魚はもっと小さいものたちを飲み込み、そうやっていのちは生まれ変わってゆく……そうして消えていく命のために祈るときにナヌークは人間に、人間はナヌークになり、いつかお前が一人前になって出会って私と戦うときがくるだろうか、そのときお前が命を落とそうが、私が命を落とそうが、それはどうてもよいのだというその言葉が-。
 星野さんは自分のナヌークに会ったのだろうか……それなら本人には悔いはないのかもしれないし、悲しむべきてはないのかもしれません……。でも、どうしても……私には複雑な苦痛が湧き上がってくるのです。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ ヤング・アダルト入門 図書館員のカキノタネ パート1』
(リブリオ出版 1997/09/20)