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今年のレントの季節、私はロンドンの街で、ふと通りかかった書店の飾り窓に目を惹かれました。C・S・ルイスの著作のすべてが美しいディスプレイで並べてあったのです。なぜ、今、ルイスなのか? その謎はまもなく解けました。今年は彼の生誕百年だったの でした! 『愛のアレゴリー』はじめ、多くの神学的著作やSF三部作で知られるルイスですが、何といってもいちばん多くの読者を得ているのは、唯一の児童文学であるこのシリーズでしょう。日本でもトールキンの『指輪物語』とともに、瀬田貞二さんの訳で親しまれているこの作品は、第一巻『ライオンと魔女』から、奥深いファンタジーの世界に読者を誘います。子どもたちが洋服だんすの奥からおもむくナルニア国、その一木一草にいたるまで心をこめて創造された異世界の面白さ、壮大なスケール、子どもたちの活き活きした描写など、たくさんの魅力がありますが、キリスト教を念頭において読む時、物語はほんとうの輝きをおびてきます。 偉大なライオンのアスランは、全編を通じてキリストの姿と重なります。この上なく優しく香しい息吹きと、畏れを呼びおこす力とを備えたアスランは、子どもたちをナルニアの核心へと導きます。 作者はこの物語を単なるアレゴリーと解釈されることを嫌いました。確かに、キリスト教の解釈抜きでも十分楽しめます。そして日本ではそのように受容されてきました。でも、キリスト教を知っていれば、ナルニア創造にこめられた真意がよく汲みとられ、さらに 興味はつきないことでしょう。 「五十歳になっても子どもの時と同じく(もしくはそれ以上に)価値のあるものでなければ、十歳の時だって読む価値はない」(『別世界にて』中村妙子訳)という作者の渾身の力作です。(きどのりこ) 『こころの友』1998.09 |
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