「夏休みだけ探偵団」シリーズ

新庄節美・作 岡本 順・絵 講談社 1988〜90

           
         
         
         
         
         
         
     
 子どもの読書の定番に探偵小説がある。彼らは、名探偵が好きなのだ。たぶん、謎ときそのものが喜びだからである。謎ときは、いわば世界に筋を通すという点で、彼らの合理主義を満足させてくれるのだ。
※ホームズとの比較について[*この行太字]
「夏休みだけ探偵団」は、「ハイテンポのストーリーと本格推理の醍醐味」が特徴だという。だから、この紹介で犯人がわかってしまうことを書くわけにはいかない……。
 タイトルを見ると、変な事件ばかりである。二丁目のいくつもの家で犬小屋だけが盗まれた! 児童館で夜中に工作のキリンがスプレーで真黒にされた! 桃太郎が赤ペンキを塗られビニールひもでぐるぐる巻きにされて発見された!(第三作の桃太郎にいたっては野良猫の名前だといわなけりゃ、ほとんどシュールでさえある。)意外な事件の発端という始め方は、ホームズの「六つのナポレオン像」や「赤毛同盟」に学んだと思われる。一見意味不明のちょっとした事件が、別の大事件に結びつく。
 ところで、ホームズ物の鍵を握るのは、ワトソンだった。あの「間抜けな友人」によってホームズの高速度な推理を読者にゆっくりと説明することができたからだ。「夏休みだけ探偵団」も、その名も和戸尊すなわちワトソンという間抜けな男の子が語るのである。彼は、大切なヒントを見落としたり、犯罪事件をのんびりムードの話に変えたりする不可欠の重要人物なのだ。
 ホームズ役が双子の女の子、冴と麗だというのも、今様である。二人のテンポにワトソンこと和戸尊が遅れてくっついてゆくのである。二人は、合気道の名手でもある。でも、彼女らは、普通の小学生だ。事件の現場もご近所の二丁目である。が、自分たちで探偵団を作り、団員証を作り、探偵事務所を開き、夏休みだけといいつつ夏休み以外にも事件が起きれば活動開始、警察をも出し抜いてしまうなんて、子どもなら一度はやってみたいのじゃなかろうか。
 探偵小説は、犯罪にまつわる社会問題、異常心理、残酷美など人間の暗部を映してしまいがちである。だから、子どもの探偵小説は、書きにくいともいえる。が、「夏休みだけ探偵団」は、すぐれた探偵小説であり、かつ自由で爽快なエンターテインメントになっている。
※作者とシリーズついて[*この行太字]
 新庄節美さんは、一九五〇年生まれとのこと。第二六回講談社児童文学新人賞からデビューした。これが「夏休みだけ探偵団」第一作『二丁目の犬小屋盗難事件』(一九八八年)である。以後、『児童館の黒キリン事件』(一九八九年)、『桃太郎の赤い足あと事件』(一九九〇年)とつづく。第二作は、第六回うつのみやこども賞を受賞した。小学生が選ぶ賞だというから本物だ。新しいシリーズに『名探偵チビー 虹色プールの謎』(一九九四年)があって、これも面白い。(石井直人)

児童文学の魅力 日本編(ぶんけい 1998)
テキストファイル化 加藤浩司