ねこが見た話

たかどのほうこ・作
瓜南直子・絵 福音館 1998.5

           
         
         
         
         
         
         
     
 日常の中にひそむちょっとした不思議な世界。わたしたちはのらねこを案内人に、そこをのぞく。のらねこと共に味わうのぞき見の楽しさと気楽さ。最後の話で、ピアノひきのおばあさんと天国の手前まで足を踏み入れたこののらねこ、予想通り、もうのらねこではいられない。かいねこになってしまうのだ。
 それはそれとして、四つの話、なかなか味わい深い。型通りの善悪観や甘ったるい人情主義から自由な所に作者がいるからだろう。
 例えば「もちつもたれつの館のまき」。館のような家にたった一人で住む大金持ちの社長男。七つの寝室を曜日ごとに使い分けるというぜいたくさ。しかしある夜、自分の将来に不安を抱く。家にまつるおねこさま(特大のまねきねこ)に将来の自分の姿を見せてくれるように頼む。思いついて次々に部屋をのぞくと、ベッドから安らかな寝息。社長男、この一週間は大丈夫と安心してぐっすり眠る。すっかり元気を回復した社長男、翌日公園で、ごろごろしている六人の風来坊たちを見かけちゃんと働くよう意見する。実はこの風来坊たちが前夜の寝息の主たちだったのだ。例の件がばれたのかとぎょっとするが、そうではなかったとわかって大笑い。その夜も館は満室。一部始終をみていたねこ。彼らが反省なんかしなくてよかった―これぞもちつもたれつの館だと安心する。
 他に、きのこをを食べつづけてきのこに変身する三人家族の話。おかあさんを超能力者にする古いいすの話。そしてピアノひきのおばあさんと語り手だったこののらねこの話。どの話も、本当ならぶきみなはずなのに、そうはならずに、ユーモラスなちょっといい話になっている。「誇り高きのらねこ、かいねこになんか!」とうそぶいてくれるねこの方が私の好みだが、おばあさんのかいねこになって幸せそうなこのねこ、作者の持ち味が良く出ている。子どもも大人も楽しめる。
 絵がいい。暮らしのにおいまで漂ってくるようだ。(藤江 美幸
読書会てつぼう:発行 1999/01/28