猫の帰還

ロバート・ウェストール

坂崎麻子訳 徳間書店 1898/1998
           
         
         
         
         
         
         
         
    
 日本の児童文学には、「戦争児童文学」ってジャンルがあります。一体これは、どういうものなのか?
 答えは簡単。反戦物です。反戦そのものは、もちろん「好戦」なんかよりいいわけですが、私にはどうしても違和感があります。というのは、これは予めある決まった価値観の元に括られているからですね。子どもは尊い存在であり、その子どもが戦争の一番の犠牲者だから、戦争はいけないし、明日の未来を作るのは子どもだから、彼らに反戦・平和を根付かせるために、戦争体験を伝えなければならない。それ自体は悪いことでもないんだけれど、もう読む前から中味は判っているって感じです。
 そんな中で今江祥智の『ぼんぼん』は、戦争を背景に自伝的少年の物語になっているけれど、そういう正しさはなく、たまたま戦争時代を生きた少年を描いている。今江によると「戦争の顔」を描くことですが、「反戦・平和」物よりずっと活き活きと当時の状況を伝えてくれます。
 今回ご紹介の『猫の帰還』。夫ジェフェリーが出征したので、フローリーは飼い猫のロード・ゴートを連れて、田舎に疎開する。しかし、猫はそこになじまず、ジェフェリーの元に帰ろうと旅を続ける。そんな設定です。
 ここにも、「反戦・平和」は前面に出てきません。物語は、主人を捜して彷徨う猫を追っていくだけ。行く先々で様々な人に飼われることになるのですが、その過程が結果的に「戦争の顔」を描くこととなります。
 夫が戦死し打ちひしがれていた婦人は、実はこの人猫嫌いなんですが、たまたま居着いたロード・ゴートが産んだ子猫の世話をすることで、生きる力を得ていく。
 幸運を呼ぶ猫としてロード・ゴートを奉る空軍パイロットたち。
 読者は猫と一緒に戦時下を過ごすとでも言えばいいでしょうか。
 作者の故ロバート・ウェストールは戦争を背景にした作品を沢山書いていますが、どれも一級品。これを機会に読んでいただけたらとても嬉しいです。
 日本では終戦(敗戦)記念日と絡めて、いつも夏にばかり、そうした本が紹介されるので、この冬にこそ、ぜひどうぞ。
『弟の戦争』(徳間書店)『海辺の王国』(徳間書店)『ブラッカムの爆撃機』(ベネッセコーポレーション)『“機関銃要塞”の少年たち』(評論社)(ひこ・田中
げきじょう99/冬号