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ゆったりしながら、いい音楽を聴いていると、とても豊かな気持になりますが、いい音楽を聴いているうちに、体が大きく大きくなってしまったのが、この本のネコ。 ある日のこと、クラリネットふきの家の前に一匹のネコが座っていました。クラリネットふきが戸を開けると、ネコは、家の中に入っていきますが、餌をやっても、口をつけません。 ところが、このネコ、クラリネ ットの音楽を聴いていると、どんどん体が大きくなって行くらしいので。それに、げっぷまで、るでクラリネットの音のよう。ネコはどんどんきくなりつづけ、家がこわれてしまうぐらいのきさになったネコは、 しまいに空をも飛べるようになります。雨の日は、飛行船の様に、ネコの体の下にバスケットをぶらさげ、男はそこにのって、クラリネットをふきます。そして、時には、お客さんを呼んで、ネコの体の上でクラリネットのコンサート。青い空にふわふわと浮かんだ真っ白な猫のやわらかな毛の中に座って音楽を聴いたら、どんなにか気持ちがいいことでしょう! 9階にある児童書の編集部の窓からは、東京湾が見えるのですが、 もし、あのレインボーブリッジの上をこのネコが飛んでいたら、手を振って、私もコンサートを聴かせてもらえるかどうか、尋ねてみたい! そして、なわばしごを登って、ふかふかのネコの背中の上でいい音楽を聴くのです。同じ音楽も、違って聞こえるにちがいありません。 ネコというのは、昔から、わたしたちの様々なイメージを喚起してきました。魔女につきものの黒猫、宮崎駿監督の「となりのトトロ」に出てくるネコバス、ギャリコの「さすらいのジェニー」に出てくる、ネコに変身してしまった 男の子……人間にとって身近なのは犬もネコも変わりないのに、いつのときにも、ネコの方が私達の想像力を刺激してくれるようです。 実際のネコたちは、人間たち が何を考えているのかなどおかまいなしに、自分のやりたいことだけをやっています。この「ネコとクラリネットふき」の中のネコもまた、クラリネットふきの思惑など関係なしに、どんどん大きくなっていきます。作者が、本の巻末でひそかに心配しているように、このネコ、いったいどこまで大きくなるのかしら……、と読者の子ども達もちょっぴり心配になるかもしれませんが、ネコが大きくなったって、それもまた楽しいかも知れないな、と思わせてくれるようなおおらかさが、この絵本のなかには、たくさんつまっています。 (米田佳代子)
徳間書店 子どもの本だより「絵本っておもしろい」1998/11,12
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