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「日本の民話えほん」シリーズ(全十巻)のうちの一冊。特別気負ったところもなく、現代の「よい子」にもみ手でにじりよっていく卑しさもなく、なんとも気持ちのよい絵本である。お話はご存じのとおり、年頃の娘の嫁ぎ先を探しているねずみの一家に「しんるいのおじさん」が縁談をもってくるところから始まる。父親は、まだ娘を手放したくない。隣村の村長のあととり息子という良縁を断り、「せかいでいちばんえれえむこどの」として、おてんとさまがいいなどと高望みを言う。世話好きなおじさんは、さっそくおてんとさまのところに出かけていく。世界で一番偉いのははたして太陽だろうか。雲にはかなわぬと太陽はいい、雲は風のほうが上だといい、風は壁、壁はねずみの方が偉いという。とどのつまりは最初持ち込んだ縁談がまとまってめでたし、めでたし。恥ずかしそうに横をむいていた娘が、「ねずみでよかった」と小さい声でいうその表情がいい。キャラクターになりにくい太陽、雲、風、壁も、いかにもそれらしく描かれる。 ねずみの使う家財道具などはねずみにふさわしいサイズだが、野菜その他は「原寸大」で、こういう神経の使い方も嬉しい。小さい子どもたたちのお気 に入りの一冊になるだろう。(斎藤次郎)
産経新聞 1996/07/05
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