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子どもの本の中でもとりわけ幼年童話は、おもしろくなくちゃとだれしも思う。しかし、それは見えすいた美談や教訓は願い下げだということであって、作者の物語にこめるメッセージそのものを否定するものではないはずだ。 ハタネズミ村きっての発明家ネズンタ博士は、ある日見かけたブタの姿に心奪われ、「大きくなる薬」の発明に熱中する。大きなからだで晴れやかに働くブタにくらべると、「小さなからだでちょこまかかけまわって、カゴひとつぶんの豆を、やっとあつめてくるハタネズミ」が、なんだかつまらない動物に思えてきたのだ。研究に研究を重ね、ついにカボチャのスープのような秘密の薬を完成、貯水池に流しこんだ。そして三日目、博士は、猫ほどにも大きくなったネズミたちが、村の道を歩いてくるのを、この目で見た。 だが、それは博士の発明の成果だったのではなかった。「世界ネズミ大会」が開かれ、からだの大きさもことばもまちまちの世界中のネズミがハタネズミ村に集まってきたのだ。 大会に招待された博士は、大きいネズミと小さいネズミの交流を目のあたりにして、発明ならぬ大発見をすることになる。その発見を博士は壇上で高らかに歌うのであるが、その中身と作者からのメッセージは、本を読んで確かめていただきたい。(斎藤次郎)
産経新聞 1996/07/12
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