人形の家

ルーマー・コツデン作
瀬田貞二訳 岩波書店

           
         
         
         
         
         
         
     
 児童文学の世界には純文学系、とでもいいたくなるような本を書く作家たちがいますが、ルーマー・ゴッデンはその第一人者です。
 その昔、アンデルセンがまるっきり民話にしか見えないような創作民話から始めて、子どもにも理解できる形で個人の人生の深みを語る方法を生み出したのを引きついで(と私には思えますが)、ルーマー・ゴッデンは子どもにも理解できる形で、善と悪、正と邪、真実、愛、体が壊れそうなほどの痛み、などを描きだすことに成功したのでした。
 主人公は木の人形たちで舞台は人形の家……ドールハウスではありますが、素直でまっ正直で優しい人形もあれば、高慢なのもひねくれ者やいつもびくびくしてるのもいて、そこには嫉妬や妬みが渦を巻き、遂には〃殺人〃-にまで至るのです。
 もちろんそういう人形たちのほとんどは大人の人形ですから、そういう感情も大人のものです。自分が大事な家族と離れて、売られるかもしれないと思った時にヒロインのトチーが感じる苦しみ……意地悪いマーチべーンの邪悪さにどう対抗すればいいのか……。
 こういうことは大人にも子どもにも確かに降りかかる災難ですが、子どもの本の世界でここまでハードに書いた人はいなかったでしょう。
 ルーマー・ゴッデンはまっすぐに真実の痛みを書いたのです。それを子どもたちは理解しました。そうして五十年たった今でも、この本はまったく色あせずに輝いているのです。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ ヤング・アダルト入門 図書館員のカキノタネ パート2』
(リブリオ出版 1998/09/14)