|
中学入学直前の春休み、父親の転勤で巧は新田市に来た。自分の球への絶対的な自信がすべて、直球勝負の投手そのままで生きてきた巧、地元少年チーム出身の捕手・豪や他のメンバーとの出会いで、彼の内面が少しづつ変化していく。また、高校野球の元監督の祖父と母の父娘としての確執、父親の存在、病弱でおとなしいだけの弟・青波が自分を主張し始め、いままで気づかなかった家族が体温を伴って迫ってくる。 氓は登場人物の紹介的な場面も免れえないが、的確に置かれた布石によって、においてのひとり一人が一層生き生きと動き出す。 舞台が中学になると、指導という名の圧力や仲間同士の思惑がどんどん絡みついてくる。自惚れやひとりよがりでなく、自分の中にあるものを信じきる巧は、野球部の先輩や監督、教師としての沽券と真っ向から衝突してしまう。豪たちは、彼の危うさ、脆さを案じながら、大人をも巻きこむその眩しいほどの力に魅せられていく。一方、自分の能力に対する将来への不安、一人息子にかける豪の母親の期待からも目をそらすことはできない。あこがれと重い現実の間で少年たちの心は揺れる。 みんな誰かを支え、支えられて、誰かを裏切り、裏切られて、関わり合い絡み合って生きている。野球がひとりではできないのと同様に人もひとりでは生きられない。孤独ではなく、仲間意識を一番強く感じることができるマウンドから、自分自身を確認するために球を放つ。 野球のつくるドラマに熱くなる人はもちろん、あまり関心のなかった人にもお薦めの二冊。できれば、まだまだ『バッテリー・』と、成長していく少年たちを追っていきたい。 (園田 恭子)
読書会てつぼう:発行 1999/01/28
|
|